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広島高等裁判所 昭和44年(う)158号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

ただし、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収してある運転免許証一通(広島高等裁判所昭和四四年領置第五一号の一)の偽造部分を没収する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は記録編綴の広島地方検察庁検察官検事樽島正義作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は記録編綴の弁護人本間大吉作成の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

記録を調べてみるのに、原判決が、本件公訴事実のうち公文書偽造の点については、公訴時効の完成により免訴すべきところ、偽造公文書行使の罪と手段、結果の関係にあるものとして起訴されたものと認められるから、主文においてその言渡をしない、と判示していることは所論のとおりである。そして、原判決の挙げている証拠によると、右公訴事実記載のとおりの公文書偽造、同行使の事実が認められ、また、右両者が罪質上通例手段、結果の関係にあり、被告人もかような関係においてこれを実行したものと認められるから、両者は刑法五四条一項後段の牽連犯としてその最も重い刑に従って処断すべき場合にあたるところ、牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪とは科刑上の一罪として取り扱われているのであるから、その公訴時効期間の算定についても、これを一体として考察すべく、結果となる犯罪が手段となる犯罪の時効期間満了後に実行されたような特殊の場合を除いては、最も重い罪について定めた刑を基準として牽連犯を構成する犯罪行為の全体につき時効の成否を決すべきものと解するのを相当とし(大審院大正一二年一二月五日判決刑集二巻九二二頁、同昭和七年一一月二八日判決刑集一一巻一七三六頁、東京高裁昭和三八年一二月一一日判決下刑集五巻一一・一二合併号一〇八四頁、同昭和四三年四月三〇日判決高刑集二一巻二号二二二頁参照、なお原判決は、牽連犯において公訴時効の点についてまでも一罪と観念すべき理由はないとして、牽連犯を構成する手段、結果たる各行為の中間に確定裁判があった場合別個に処断すべしとする考え方が参考となる旨判示しているが、右見解の採用できない点につき最高裁昭和四四年六月一八日判決刑集二三巻七号九五〇頁参照)、本件においては犯情の重い偽造公文書行使の罪について定めた時効期間に従うべく、右の罪について本件起訴当時いまだ公訴時効が完成していなかったことは記録上明らかであるから、本件公文書偽造、同行使の罪の全体について公訴時効が完成していなかったことになるのである。これと異なる前提に立ち、右公文書偽造の点について公訴時効が完成したことを理由に免訴すべきものとした原判決は刑訴法三三七条四号の解釈適用を誤ったもので、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。

そこで、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書を適用して、本件被告事件について更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和三七年二月上旬ごろ、広島市昭和町六三二番地の自宅において、行使の目的をもって、ほしいままに、昭和三六年五月一八日付広島県公安委員会発行第二三、二二二号上野種男に対する大型自動車第二種運転免許証一通の写真貼付欄に貼付された右上野の写真をはがして、その跡に自己の写真を貼り代え、もって右公安委員会作成名義で、同公安委員会の記名および押印のある大型自動車第二種運転免許証一通を偽造し、

第二、昭和三八年五月二〇日午後九時三〇分ごろ、大型ダンプカーを運転して広島県高田郡八千代町大字勝田所在吉田警察署勝田巡査駐在所前国道にさしかかった際、同所において交通違反取締中の同警察署勤務司法巡査木村正道から運転免許証の呈示を求められ、同巡査に対し前記偽造にかかる運転免許証を真正に成立したもののように装い呈示して行使し

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法一五五条一項に、同第二の所為は同法一五八条一項、一五五条一項にそれぞれ該当するが、右両者の間には互に手段、結果の関係があるので同法五四条一項後段、一〇条により犯情の重い後者の罪の刑に従い、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、押収の自動車運転免許証一通の偽造部分は判示第一の犯行より生じ、かつ、判示第二の犯行の組成物件で何人の所有をも許さないものであるから、同法一九条一項三号、一号、二項によりこれを没収し、原審訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 浅野芳朗 丸山明)

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